宿泊業や飲食業は、集客の波に加えて人手不足も重なり、何から手を付けるか迷いやすい分野です。施策を足す前に、売上を上げる要素を分解して整理すると、やることがはっきりします。ポイントは、誰に何を売るか、商品と発信、実行のための時間と資金の3つです。
この記事では、沖縄県よろず支援拠点が公開している支援事例を手がかりに、宿泊、飲食の売上向上を現実的な手順に落とします。

法人客を狙うなら、1人1万円の飲食費ルールを押さえていますか?
5,000円から10,000円へ、コース設計に影響する変更
法人が取引先との会食で支出する飲食費は、条件を満たすと交際費等から除かれる扱いになります。基準は1人当たり10,000円以下で、2024年3月31日以前の支出は5,000円以下が基準です1。さらに、年月日、参加者、人数、店名と所在地などを記載した書類を保存していることも要件です1。飲食店側から見ると、法人客が経費処理しやすい店を選びやすくなるため、価格だけでなく説明の仕方が売上に影響し、比較の場面で差が出ます。
幹事の困りごとを先回りすると、選ばれる理由が増える
このルールは支払う会社側の話ですが、店側が協力できる余地があります。たとえば、1人当たりの金額が分かるコース名、人数が確定しやすい予約ルール、領収書に店名と所在地が明確に出る運用です。沖縄県よろず支援拠点の事例では、ルール変更を踏まえ、接待向けコースの価格設定やプラン開発、SNSでの情報発信を検討する流れが紹介されています2。ここで大事なのは、1万円に合わせた価格表を作ることではなく、誰が、どんな場面で使う店かを言語化し、幹事が社内説明しやすい情報に整えることです。
もう1つ注意したいのは、この基準がそのまま店側のルールではない点です。飲食店が税務判断をする必要はなく、店は事実としての金額や人数が分かる情報を整え、処理の判断は支払側が税理士などに確認するのが安全です1。店が提供できる範囲を明確にしておくと、無理な要望に振り回されにくくなり、スタッフ間でも対応が揃いやすくなります。次は、こうした整理を無料で一緒に進められる、よろず支援拠点の使い方を確認します。
よろず支援拠点は何をしてくれるのか?
国が設立した無料相談で、経営課題をワンストップで扱う
よろず支援拠点は、国が設立した無料の経営相談所として案内されています3。販路開拓や資金繰り、IT活用など、中小企業や小規模事業者が抱える経営課題にワンストップで対応するとされています3。沖縄の事例を取り上げていますが、窓口は各都道府県にあり、地域が違っても同じように相談できます3。相談料がかからない分、最初から完璧な資料を持ち込む必要はありませんが、相談のゴールだけは決めておくと話が早くなります。
初回相談の前に用意すると、助言が具体的になるもの
よろず支援拠点の相談は、現状の棚卸しから始まります。次の4つがあると、助言が抽象論で終わりにくくなります。さらに、相談したい内容を、いつ、誰が、何に困っているかで言える形にしておくと、相談時間を有効に使えます。紙に書き出して持っていくだけでも、当日の聞き忘れが減り、その場でメモが取れなくても後から振り返れます。
- 直近3か月の売上と客数、客単価(分かる範囲で構いません)
- 予約経路や来店経路(旅行予約サイト、SNS、紹介など)の内訳
- いま困っている場面(例、仕込みが回らない、団体が取れない)
- まず改善したい数字(例、平日客数、宴会比率、稼働率)
たとえば、団体が取れないなら曜日、人数、予算帯、予約の締切、受け入れの上限が曖昧になっていないかを確認します。宿泊なら、空室が多い時期と、予約経路ごとの手数料を押さえるだけでも、次の打ち手が具体化します。大事なのは、事業の中で一番詰まっている工程(ボトルネック)を、言葉で説明できる状態にすることです。準備ができたら、飲食の集客改善がどこから始まるのかを支援事例で見ます。
飲食店の集客改善は、ターゲットを先に決めると迷いが減る
近隣客とグループ客を分けて、SNSの役割を決める
名護市の飲食店の支援事例では、コロナ禍後の再スタートで、店舗とメニューをSNSで発信しつつ、近隣の商圏ターゲットや模合(沖縄の仲間内の集まり)などのグループ客を想定したPRの方針を提案したと紹介されています4。ここでの肝は、SNSを万能な集客装置だと考えないことです。誰に見せる投稿かを先に決めると、写真の撮り方も、書く言葉も揃ってきます。たとえば、団体向けなら席のレイアウト、予約条件、コースの所要時間など、幹事が知りたい情報が優先されます。
投稿内容も、無理に毎回変える必要はありません。店の強みが伝わるテーマを2つか3つに絞り、同じ型で続けるほうが、見た人が予約しやすくなります。続けやすい型ができると、発信にかかる時間が減り、接客や仕込みの質にも余裕が出ます。投稿の最後に予約方法を1つに決めて書くと、行動に移りやすくなります。
投稿で終わらせず、予約や問い合わせまでの流れを作る
同じ事例では、夏祭りの花火を眺められる立地を生かし、SNSで先行予約を行ったことや、相談前と比べて来店客数が最大で月100名以上増加したと記載されています4。数字は店や地域で再現性が変わりますが、発信は投稿で終わらせず、予約や問い合わせにどうつなげるかまで設計する重要性が見えます。予約方法を固定し、キャンセル規定を明確にし、問い合わせ対応の担当者と時間帯を決めるだけでも、団体の取りこぼしは減ります。飲食の学びを踏まえ、次は投資額が大きい宿泊で、計画の作り方がどう影響するのかを見ます。
宿泊業の資金調達は、計画書に集客の強みを入れると通りやすい
融資が難しい理由は、データ不足より計画の言語化不足になりやすい
宮古島市で宿泊業を始めたい相談者の事例では、県外で事業経験はあるものの宿泊業は初めてで、沖縄の市場データが不足しているため融資が難しいという相談が出発点でした5。支援側は、施設の想定、稼働率や宿泊料金などを置き、事業計画書をまとめた上で、沖縄振興開発金融公庫への相談を提案したとされています5。この話が示すのは、計画書が数字の羅列ではなく、事業が動く筋道を説明する文書だということです。たとえば、客層、予約経路、清掃とチェックインの運用、繁忙期と閑散期の対応まで書けると、読み手の不安が減ります。
計画でよく抜けるのは、運用の手間です。鍵の受け渡し、清掃の外注有無、トラブル時の連絡先など、当たり前のことほど書かれないままになりがちです。ここを先に埋めると、収支計画の数字も現実に近づきます。運用コストが見えると、売上の目標も無理なく置けるようになり、返済計画の説明もしやすくなります。
旅行予約サイトの選定など、強みを計画に盛る
同事例では、相談者がSNS活用のノウハウを持ち、複数の旅行予約サイト(OTA、Online Travel Agency)の選定もできている点を、集客の強みとして計画に加えたと記載されています5。その後、施設タイプを変更する決断により利益が改善し、融資交渉が進んだとも紹介されています5。宿泊業は固定費が大きい分、計画の修正が怖くなりがちです。ただ、前提を見直し、利益が出る形に作り直すほうが、資金調達も運営も現実に近づきます。
宿泊の計画づくりは、飲食の集客と同じで、強みを言葉にする作業です。強みは、立地や設備だけでなく、運用上の工夫や予約の取り方にも出ます。それを文章にできると、相談の場でも説明がぶれません。最後に、その強みを実行できる体制を作るための、設備投資と資金制度の話に移ります。
設備投資で時間を作るなら、業務改善助成金の条件を先に確認する
賃上げと設備投資がセットで、順番を間違えると対象外になりやすい
業務改善助成金は、生産性向上に資する設備投資等を行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合に、設備投資などにかかった費用の一部を助成する制度です6。リーフレットでは、事業場内最低賃金を30円以上引き上げ、設備投資等を行った場合に費用の一部を助成し、助成金は最大600万円と示されています7。また、計画を立てて申請し、交付決定後に計画どおり進める流れが明記されており6、購入や契約を先に進めると対象外になるリスクがあります。まずは、事業場内最低賃金(事業場で最も低い時間給)を把握し6、賃上げと設備投資を同じ計画に並べることが出発点です。
制度には、事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内といった要件も示されています6。つまり、制度に合わせて設備投資を決めるのではなく、先にどの作業を減らすかを決め、条件に合うかを確認する順番が安全です。ここで条件が合わなければ、同じ投資でも融資など別の手段に切り替える判断ができます。要件や受付期間は年度ごとに見直されることがあるため、最新情報は公式ページで確認してください6。
飲食、宿泊の導入例を見て、自社の作業の詰まりに当てはめる
労働局が公表する活用例では、飲食業でスチームコンベクションオーブン、食洗器、真空包装機、販売管理システムなどの導入が挙げられています8。ただし、助成金は機器カタログではなく、賃上げと生産性向上のセットが前提です。従って、仕込み、洗浄、予約管理などの中で時間を最も使っている作業を1つだけ選び、その作業が減る根拠を説明できるようにします。従業員がいない場合は対象外になり得るなど注意点もあるため6、要件の確認を早めに行い、その上で今日からの進め方を3段にまとめます。
- 誰に何を売るかを決め、数字で現状を把握する
- 商品と発信を揃え、予約や問い合わせまでの流れを作る
- 実行の時間と資金を確保し、必要なら制度も使う
よろず支援拠点に相談する場合は、この3段のどこで詰まっているかを伝えると、次にやる作業が具体化しやすくなり、相談後の宿題も整理しやすくなります。小さく始めるなら、A4用紙1枚に現状と狙いを書き出し、最初の1回はやらないことまで相談するのがおすすめで、相談の内容がぶれにくくなり、当日の時間も短く済みます。初回の宿題が決まったら、次回相談で進捗を確認する流れにすると、改善が形になりやすいです。やることが減ると、売上向上のための行動が続けやすくなります。
出典・参考資料
交際費等から除かれる一定の飲食費について、1人当たり10,000円以下であることと、必要事項を記載した書類を保存していることが要件と示されている。国税庁(2025年4月1日現在) ↩
少額飲食費の基準が1万円に引き上げられたことを踏まえ、接待コースの価格設定とプラン開発、SNS発信を検討する流れを支援事例として紹介している。沖縄県よろず支援拠点 note公式(2024年7月7日) ↩
よろず支援拠点を国が設立した無料の経営相談所として紹介し、ワンストップで経営課題に対応すると説明している。中小企業庁(ミラサポplus) ↩
名護市の飲食店で、ターゲットを想定したSNS発信と予約の工夫により、相談前と比較して来店客数が最大で月100名以上増加したと紹介している。沖縄県よろず支援拠点 note公式(2025年1月5日) ↩
宮古島市で宿泊業を始める相談で、事業計画書に稼働率や料金、集客の強みを盛り込み、融資交渉を進めた支援事例を紹介している。沖縄県よろず支援拠点 note公式(2023年11月12日) ↩
業務改善助成金の制度概要として、設備投資等と事業場内最低賃金の引上げをセットで行うこと、申請後に交付決定を受けてから実施する流れなどを説明している。厚生労働省 ↩
令和7年度のリーフレットで、事業場内最低賃金を30円以上引き上げ、設備投資等を行った場合に費用の一部を助成し、助成金は最大600万円と示している。厚生労働省(令和7年度) ↩
労働局が公表する活用事例で、飲食業の設備投資例としてスチームコンベクションオーブンや食洗器、真空包装機などを挙げている。徳島労働局 ↩
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
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