事業承継で消費税はかかるのか? 株式譲渡と事業譲渡、課税対象資産の見分け方

事業承継を考え始めると、売却価格そのものより、あとから出てくる税金の扱いで迷う場面が増えます。とくに混同しやすいのが、株式譲渡では消費税がかからない一方、事業譲渡では譲渡する資産によって消費税が発生するという違いです。何を渡すのか、売り手が誰かまで見てはじめて、実際の負担が見えてきます。

最初に何を見ればいいのか?

移る資産の中身を確認する

事業承継で消費税を判断するときに大事なのは、資産の中身です。国税庁の質疑応答には、営業権10億円、有形固定資産10億円、土地20億円をまとめて譲渡した例があり、消費税の課税対象になる対価は40億円全体ではなく20億円だけとされています。営業権と有形固定資産は課税対象ですが、土地は非課税だからです。1

この考え方を先に押さえると、話がかなり整理しやすくなります。株式譲渡は株式そのものを渡す取引です。事業譲渡は、建物や機械、棚卸資産、権利などを個別に渡す取引です。つまり、同じ事業承継でも、何を売るのかで消費税の見え方が変わるということです。23

ここで混同が起きやすいのは、会社ごと引き継ぐ話と、店舗や事業部だけを切り出して引き継ぐ話が、どちらもM&A(企業の買収や売却)として一緒に語られやすいからです。

前者は会社の所有権が動き、後者は会社が持つ資産や契約が動きます。消費税は会社の看板ではなく、実際に移る対象に反応します。この順番を逆にすると、最初の概算で大きくずれます。最初の一枚目の見積書で差が出やすい部分です。

株式譲渡ではなぜ消費税がかからないのか?

株式は有価証券として扱われる

株式譲渡で消費税がかからない理由は、株式が有価証券の譲渡として非課税取引に入っているからです。国税庁は、株式等や金銭債権、土地の譲渡を主な非課税取引として挙げています。会社のオーナーが自社株を売る場面でも、法人が子会社株式を売る場面でも、株式そのものの売買代金に消費税はかかりません。2

ここで誤解しやすいのは、株式譲渡に関連する支出まで非課税になるわけではないことです。M&A仲介、法務、税務、デューデリジェンス(買収前の調査)のような専門家サービスは、役務の提供として別に考える必要があります。株式の売買代金は非課税でも、周辺コストまで同じ扱いだと思い込むと予算がずれます。3

売り手側から見ると、株式譲渡の扱いが比較的分かりやすいのは、会社の中の資産を一つずつ値付けしなくても進めやすいからです。

反対に買い手側は、会社に残っている負債や契約関係も含めて引き継ぐことになるため、消費税の有無だけでなく、どのリスクをまとめて受けるのかまで見て手法を選ぶ必要があります。

20%は、個人が売り手のとき

もう一つ大事なのは、株式譲渡は20%という説明がいつでも当てはまるわけではないことです。国税庁のタックスアンサーでは、一般株式等の譲渡益は申告分離課税で、税率は20%とされ、平成25年から令和19年までは復興特別所得税を上乗せして申告します。2026年時点で個人が売り手なら、実効税率は20.315%と理解しておくと実務に合います。4

ただし、この整理は個人オーナーが株式を売る場面の話です。法人が保有株式を売却する場合、譲渡益は法人の所得に含めて計算します。

事業承継の相談で株式譲渡なら一律20%と言い切ってしまうと、個人と法人の違いを落としてしまいます。消費税の有無と、売り手にかかる所得課税は、分けて見る必要があります。4

事業譲渡ではどこまでが課税対象になるのか?

課税される資産と、されない資産

事業譲渡では、譲渡対象になる資産を一つずつ見ていきます。国税庁は、建物、機械、備品、商品などの棚卸資産、特許権や商標権などの権利を、資産の譲渡として課税対象になる例に挙げています。

さらに、営業の譲渡に関する質疑応答では、営業権(一般にのれん)も課税対象に含めています。31

一方で、非課税になる資産もあります。代表的なのは土地、株式、売掛金や貸付金などの金銭債権です。事業譲渡の価格を一つの金額で見てしまうと、どこに消費税が乗るのかが分かりません。まずは資産を課税資産と非課税資産に分けるところから先に始めるのが安全です。2

この区分が難しいのは、会計の科目名と消費税の区分が一対一ではないからです。たとえば、同じ不動産でも土地は非課税ですが、建物は課税対象です。売掛金は非課税ですが、在庫は課税対象です。資産評価を税務の区分まで落として見ないと、契約金額の設計を誤りやすくなります。23

  • 課税対象になりやすいもの

建物、機械装置、車両、棚卸資産、ソフトウェア、特許権、商標権、営業権

  • 非課税になりやすいもの

土地、株式、出資持分、売掛金、貸付金などの金銭債権

売買代金の全額ではなく、課税資産部分だけ

ここで覚えておきたいのは、売買代金の全額に消費税がかかるわけではないことです。事業譲渡の契約書に総額だけを書いていると、あとでどの部分が課税対象なのか説明しにくくなります。

価格交渉の段階から、建物はいくら、在庫はいくら、土地はいくらと分けて考えるほうが、後の税務処理までスムーズです。1 たとえば、事業の譲渡総額が1億2,000万円でも、その内訳が建物4,000万円、機械1,000万円、棚卸資産2,000万円、営業権3,000万円、土地2,000万円なら、消費税を見る対象は1億2,000万円全体ではなく課税資産の1億円部分です。

数字は単純化した例ですが、実務で大事なのは総額ではなく内訳です。この視点がないと、最終的な手取り額も買い手の必要資金も読み違えやすくなります。

実務で見落としやすいポイント

売り手が課税事業者か、免税事業者かを確認する

事業譲渡で課税資産が含まれていても、実際に消費税の申告や納税が生じるかは、売り手が課税事業者かどうかでも変わります。国税庁によれば、基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら、原則として納税義務は免除されます。

ただし、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)の登録を受けている場合などは、1,000万円以下でも免除されません。売上規模だけを見て免税だろうと決めつけるのは危険です。5

さらに国税庁は、課税事業者が事業用資産を譲渡した場合は消費税が課税される一方、免税事業者や事業者でない者が資産を譲渡した場合は消費税等は課税されないと整理しています。

つまり、同じ建物や機械を渡す取引でも、売り手の税区分で実務は変わります。価格表だけ見て判断せず、売り手の登録状況まで確認したいところです。ここを外すと前提が崩れます。6

契約書では資産の内訳と保存書類まで整えておく

契約の段階で大切なのは、資産の内訳を契約書に落とし込むことです。土地と建物をまとめて一つの価格にしたり、営業権をどこまで含むのかを曖昧にしたりすると、消費税の対象額が見えにくくなります。あとで調整しようとすると、売り手と買い手で認識がずれやすく、税務処理も煩雑になります。1

買い手が仕入税額控除(支払った消費税を差し引く仕組み)を見込むなら、帳簿と請求書等の保存要件も外せません。国税庁は、仕入税額控除を受けるために、法定事項が記載された帳簿と請求書等の保存が必要だと示しています。

取引を決める場面では価格に目が向きがちですが、書類が整わないと後工程で困るため、契約書、請求書、資産明細をセットで十分に設計する必要があります。7

とくに買い手側は、最終的に仕入税額控除を使う見込みがあるとしても、支払時点では消費税相当額をいったん資金計画に入れておくほうが安全です。

承継直後は運転資金や修繕費、人材の引継ぎ費用も重なりやすく、税務書類の不備まで起きると想定外の負担になりやすいからです。

判断に迷ったら確認すべきこと

3つの確認項目

事業承継で消費税を見誤りにくくするには、三つの確認をこの順番で進めるのが有効です。実務でよくあるのは、最初の見積もり段階では総額だけを見て話を進め、基本合意の後になってから資産の内訳や税区分を詰める流れです。

これだと、価格交渉はまとまっていても、最終契約の直前で税負担の見込みが変わり、買い手と売り手の期待がずれやすくなります。

  • まず、株式譲渡なのか、事業譲渡なのかを確かめる
  • 次に、譲渡対象を課税資産と非課税資産に分ける
  • 最後に、売り手が課税事業者か、適格請求書発行事業者かを確認する

この順番で見れば、最初の見積もりで大きくずれる可能性はかなり下げられます。もし途中で一つでも曖昧な項目が残るなら、そのまま総額だけで話を進めないことが大切です。

土地と建物が混ざっていないか、営業権の金額が独立しているか、売り手の登録状況を確認したか。この三つを戻って確認するだけでも、契約後の手戻りはかなり防げます。

事業承継で消費税がかかるかどうかは、ひとことで決まる話ではありません。ただ、判断の軸は複雑に見えても一定です。株式譲渡には原則として消費税はかからず、事業譲渡では移る資産ごとに判定する。この一本線を押さえておけば、契約前に確認すべきポイントがかなり見えやすくなります。

  1. 「営業の譲渡をした場合の対価の額」国税庁

  2. 「No.6201 非課税となる取引」国税庁

  3. 「No.6145 資産の譲渡の具体例」国税庁

  4. 「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」国税庁

  5. 「No.6501 納税義務の免除」国税庁

  6. 「No.6931 消費税等と譲渡所得」国税庁

  7. 「No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項」国税庁

執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部

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