事業承継ファンドの仕組み、メリット・デメリット、活用方法を整理

補助金フラッシュ 士業編集部

事業承継ファンドという言葉を目にする機会が増えました。後継者不足の話題と一緒に語られがちですが、実際には単なる会社売却の言い換えではありません。
後継候補はいるのに資金が足りない、あるいは引継ぎ後の経営体制に不安がある。そんなときに使えるのが、資本の引継ぎと経営支援をまとめて担う事業承継ファンドです。仕組みと向き不向きを先に理解しておくと、売却か廃業かの二択で悩まずに済みます。

今、事業承継ファンドが増えている理由

後継者不足は前からある課題ですが、最近はその中身が少し変わっています。問題は単に後を継ぐ人がいないことだけではなく、人はいても資本が動かない会社が目立ってきたことです。

廃業の判断が早まる前に、株式と経営の引継ぎを別々に考える視点が必要になっています。ここを一緒くたにすると、承継できる会社まで閉じる方向へ傾きやすくなります。

黒字の会社でも閉じる時代になった

2024年の休廃業・解散は6万2695件に達し、そのうち直前期が黒字だった企業は51.5%でした。利益が出ていれば残るとは限らず、経営者の高齢化や承継の詰まりがあると、会社は黒字のまま市場から消えます。

事業承継ファンドが注目されるのは、業績不振の救済ではなく、残せる会社を残す手段として期待されているからです。1

社内候補がいても株式を動かせない

後継者不在率は2024年でも52.1%となお半数超です。しかも実務では、後継候補が社内にいても、株式の買い取り資金や経営を支える体制が足りず、承継が止まるケースがあります。

伊藤忠商事、野村ホールディングス、三井住友信託銀行が2026年に設立した内部承継向けファンドは、まさにその穴を埋める発想でした。

ゆうちょ銀行の300億円規模の地域事業承継ファンドや、静岡銀行、山梨中央銀行、八十二銀行による30億円の事業承継ファンドも、同じ流れの中にあります。2345

ここまでで、後継者問題の本体が人材不足だけではなく、資本承継の詰まりにもあると見えてきます。次は、その詰まりをファンドがどう解くのかを見ます。順番に整理します。この順番が大切です。

事業承継ファンドはどう動くのか?

事業承継ファンドの理解で大切なのは、買い手そのものというより、次の承継までの中継ぎ役と捉えることです。

普通のM&A(企業の譲渡・買収)では買い手がそのまま最終オーナーになることが多いのに対し、事業承継ファンドは一度株式を引き受け、経営体制を整えたうえで次の受け手へ渡す形をとりやすいです。678

まず株式を引き受け、次の経営体制を整える

ここで、銀行融資だけで足りる場面との違いも押さえておきたいです。融資は資金を補う手段として有効ですが、株式を誰が持つのか、引継ぎ後の経営体制をどう整えるのかまでは面倒を見ません。

一方で事業承継ファンドは株主として入り、後継社長や管理体制づくりまで踏み込みます。お金を借りる発想ではなく、株主を入れ替える発想だと考えると違いがわかりやすくなります。9610

中小企業庁は、従業員承継では株式を有償で買い取る経営陣による買収(MBO)があり、その選択肢として事業承継ファンドを挙げています。実際のファンド運営会社も、オーナーの株式を引き受けて現金化し、その後は後継社長の支援や必要な人材の補強を行うと説明しています。

社内に社長候補がいるならその人を支え、いないなら外部から適任者を探す。資本の引継ぎと経営の引継ぎを分けて進められるのが大きな特徴です。610

GPとLP、出口までがセット

多くのファンドは、投資事業有限責任組合(LPS)という器で組成されます。経済産業省によれば、LPSは業務を執行する無限責任組合員(GP)と、資金を出す有限責任組合員(LP)で構成されます。

つまり、運営する側と出資する側が分かれていて、投資回収が前提の仕組みです。プライベートエクイティ(PE)の業界団体も、PEファンド(未上場企業に投資し、経営に関わるファンド)は過半数株式の取得や役員派遣を通じて企業価値を高め、最終的には第三者売却や新規株式公開(IPO)、自社株買いなどで保有株式を売却すると説明しています。97

仕組みがわかると、事業承継ファンドのメリットとデメリットが同じ根っこから出ていることも見えてきます。資金と支援を入れられる一方で、将来の出口も最初から組み込まれているからです。

メリット

メリットが大きいのは、商品や技術、顧客基盤には強みがあるのに、株主の高齢化と承継資金の不足で手が止まっている会社です。

反対に、親族内で後継者も資金も決まっていて、株式移転だけを早く済ませたい会社なら、税制や融資の活用で足りることもあります。事業承継ファンドは万能ではなく、資金と体制整備が課題の会社ほど力を発揮します。610

株式取得資金の壁を越えやすい

事業承継ファンドの一番わかりやすい利点は、最初から全株式を買わなくてよいことです。役員や幹部社員が会社をよく理解していても、自力で株式を買い取れるとは限りません。

そうした場面でファンドが先に株式を引き受ければ、現経営者は退きやすくなり、後継者側は経営の移行を段階的に進めやすくなります。第三者への即時売却ではなく、できるだけ社内に近い形で会社を残したいときに向いています。3610

組織経営に移りやすい

もう一つの利点は、資金だけで終わらないことです。ファンド運営会社の説明では、営業、管理、財務、人事などの課題を整理し、必要な人材を派遣しながら会社の体制を整える支援が重視されています。

これは、創業者が強すぎて、社長が抜けると回らなくなる会社ほど意味があります。組織で回る経営に移せれば、その後に事業会社へ譲る場合でも、経営陣が買い戻す場合でも選択肢が増えます。36

ただし、この支援は外部株主を受け入れることと引き換えです。ここを曖昧にしたまま進めると、後で思っていた話と違うとなりやすいので、次の章で注意点をはっきりさせます。

デメリット

ずっと持ってくれる相手ではない

最大の注意点は、永続保有の前提ではないことです。日本プライベートエクイティのFAQでは、7〜9年の運用期間の中で投資し、3〜5年で企業価値を高めて売却する仕組みを説明しています。

一般社団法人日本プライベート・エクイティ協会も、日本のPEファームが買収した企業の平均保有期間は4〜5年程度で、事業会社への売却やIPOが一般的だとしています。今の社風を尊重してもらえても、その次の承継先まで完全に固定できるわけではありません。68

意思決定の自由度が低下する

もう一つ見落としやすいのは、ファンドごとに投資対象と支援の濃さがかなり違うことです。日本プライベートエクイティは、家業のままで社長が抜けたら成り立たない会社より、ある程度組織として回っている優良中小企業を対象にすると明記しています。

どのファンドでも同じ支援が受けられるわけではないので、価格だけでなく、誰がどこまで伴走するのかを見ないと比較を誤ります。6

ファンドが株主になる以上、予算管理、役員体制、経営指標の見方はこれまでより厳密になるのが普通です。それは、属人経営を改めたい会社には追い風ですが、創業家が長く過半数を持ち続けたい、細かな判断まで外部に関与されたくないという会社には負担になります。

将来の譲渡先についても、企業文化や社員を大切にしてくれる相手を選ぶという考え方はありますが、最終判断では成長性や回収可能性も無視できません。

自由度の低下をどう受け止めるかで、向き不向きは大きく分かれます。67 だからこそ、価格だけで決めるより、どこまで任せて何を守りたいかで判断した方が失敗しにくくなります。最後に、相談前に整理しておきたい順番をまとめます。

活用前に決めておきたいこと

先に決めたいのは、何を売り、何を残すのか

ファンドの話を聞く前に、現経営者が次の四つを言葉にしておくと、比較がぶれにくくなります。残したいものが曖昧だと、親族内承継、通常のM&A、事業承継ファンドのどれが合うか判断しにくいからです。中小企業庁も、まずは事業承継・引継ぎ支援センターへの相談を勧めています。10

  • 引退したい時期
  • 社内承継を優先するか、第三者承継も含めるか
  • 社名、雇用、取引先との関係のうち何を守りたいか
  • 将来の売却や買い戻しをどこまで受け入れられるか

事業計画と相談先を先に整える

中小企業基盤整備機構は、ファンドから投資を受ける流れとして、仕組みの理解、経営計画と資金計画の策定、投資会社探し、相談、審査と投資決定という順番を示しています。実務では、直近数年の決算書、株主構成、主要取引先への依存度、現場を回せる幹部の有無、引継ぎ後の成長計画まで揃っていると話が早くなります。

事業承継ファンドは、後継者不足そのものを魔法のように解決する道具ではありません。ただ、株式の移し方で止まっているなら、有力な選択肢になります。

逆に、外部株主を入れずに長期の独立を最優先したいなら、別の承継方法を選んだ方が納得しやすいはずです。社長個人の感覚だけで決めず、後継候補や金融機関、専門家も交えて比べると、選択の精度は上がります。11

  1. 「2024年の休廃業・解散企業、過去最多の6.26万件 高齢代表者の退出が加速、赤字率は過去最悪に」東京商工リサーチ

  2. 「全国後継者不在率動向調査(2024年)」帝国データバンク

  3. 「中小企業内の役職員への事業承継を目的とした内部承継プラットフォーム投資事業有限責任組合を設立」伊藤忠商事

  4. 「ゆうちょキャピタルパートナーズ(株)の地域事業承継を目的とした旗艦ファンド(300億円)組成について」ゆうちょ銀行

  5. 「富士山・アルプス アライアンスファンドの設立」静岡銀行ほか

  6. 「FAQ|事業承継・事業再編ファンドの運営」日本プライベートエクイティ

  7. 「よくあるご質問」一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会

  8. 「日本におけるプライベート・エクイティ市場の概観」一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会

  9. 「投資事業有限責任組合(LPS)制度について」経済産業省

  10. 「事業承継を実施する」中小企業庁

  11. 「ファンドから投資を受けたい」中小企業基盤整備機構

執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部

補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。

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