事業承継の相続税と贈与税はいくらかかる? 自社株評価から計算方法まで
事業承継で遅れやすいのは、後継者探しそのものより、税額の見積もりです。とくに非上場会社では、税額は会社の知名度や資本金より自社株がどう評価されるかで大きく変わります。
先に押さえたいのは、自社株評価、相続税と贈与税の計算ルート、そして事業承継税制が使えるかの3点です。
この記事では、親族内承継を想定して、相続税と贈与税がいくらになりやすいのか、どの順番で計算すればよいのかを実務に沿って整理します。
最初に何から確認すればいいのか?
事業承継の話になると、まず株の分け方や後継者の肩書に目が向きがちです。ただ、その前に見ておきたいのが資料の日付です。税額試算の前提になる制度の期限がずれていると、使えるはずの選択肢を外してしまうからです。
制度の締切
ここで意外なのは、公式資料どうしでも時点の違いで締切表示がずれることです。中小企業庁の2024年作成パンフレットでは、特例承継計画の提出期限は2026年3月31日までと案内されています1。
一方で、現在の中小企業庁の支援策ページと法人版事業承継税制の案内、財務省の2026年度税制改正の大綱では、法人版の特例承継計画は令和9年9月30日まで、承継の実行は令和9年12月31日までと示されています234。まず制度が使えるかどうかを、最新の案内で確認する。これが計算の出発点です。
自社株がいくらで評価されるか
次に必要なのが自社株評価です。国税庁の評価ルールでは、非上場株式は会社規模に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、またはその併用で評価します。少数株主が持つ株式では、配当還元方式になる場合もあります5。
つまり、同じ売上規模でも、利益の出方、内部留保、土地の含み益、現預金の厚みで株価はかなり変わります。
さらに、後継者が同族株主として株式を集めるのか、少数株主として持つのかでも評価の見え方が変わります5。資本金が1,000万円だから税額も軽い、という見方は危険です。
ここまで分かれば、次は相続で渡した場合の税額を試算できます。
相続税はいくらになるのか?
相続税は、受け取った財産にそのまま税率を掛ければ出る税金ではありません。遺産全体を先に計算するという順番を踏みます67。
相続税の概算の考え方
相続税の概算は、次の4段階で考えると整理しやすくなります。
- まず、預金、不動産、自社株、生命保険金などを合算し、債務や葬式費用を差し引いて課税価格の合計額を出す6。
- 次に、3,000万円+600万円×法定相続人の数で基礎控除額を計算し、それを差し引いて課税遺産総額を出す6。
- その後、課税遺産総額を法定相続分で分け、速算表の税率を当てはめて相続税の総額を計算する。税率は10%から55%までの累進7。
- 最後に、その総額を実際に取得した財産の割合で各人に割り振り、配偶者の税額軽減などの控除を反映して納付額を決める6。
この順番を押さえると、なぜ兄弟で同じ額を相続しなくても、相続税の総額は一度まとめて計算されるのかが見えてきます。
ざっくり試算すると、税額の重さが見える
たとえば、父が保有する自社株の評価額が1億8,000万円、預金が4,000万円、借入金などの債務が2,000万円、法定相続人が子2人だけだとします。課税価格の合計額は2億円です。ここから基礎控除4,200万円を引くと、課税遺産総額は1億5,800万円になります6。
子2人なら法定相続分は2分の1ずつなので、1人あたり7,900万円として速算表を当てます。7,900万円は相続税の速算表で30%の区分に入るので、1人あたりの算出税額は7,900万円×30%−700万円で1,670万円、合計で3,340万円です7。
これはかなり単純化した試算ですが、税額が数百万円ではなく数千万円単位になり得ることはつかめます。配偶者がいる場合や、小規模宅地等の特例が使える場合は下がることがありますが、まずはこの荒い試算を出してから細かい特例を重ねる方が判断しやすくなります。
相続の全体像が見えたら、次は同じ株式を生前贈与した場合と比べます。
贈与税はどう計算するのか?
生前贈与は相続税対策として語られやすいものの、一括贈与は重くなりやすいことがあります。ここを感覚で決めると、承継後の資金繰りまで苦しくなります。
暦年課税は、一括移転だと想像以上に重くなる
暦年課税の贈与税は、その年にもらった財産の合計から基礎控除110万円を引き、速算表の税率を掛けて計算します8。18歳以上の子が父母や祖父母からもらう場合は特例税率が使えますが、それでも高額の自社株をまとめて移すと負担は重くなります8。
同じく1億8,000万円の自社株を、父から18歳以上の子へ1年で贈与すると仮定すると、課税価格は1億7,890万円です。この水準は特例税率の最上位区分なので、税額は約9,200万円になります。
相続の簡易試算3,340万円と比べてもかなり大きく、生前贈与なら必ず有利とは言えないことが分かります。毎年少しずつ移すのか、別の制度を使うのかを分けて考える必要があります。
相続時精算課税は、先に払わない制度であって消える制度ではない
相続時精算課税を選ぶと、2024年以後の贈与では、その年の贈与額から110万円の基礎控除を引き、さらに残っている特別控除2,500万円を差し引き、超えた部分に一律20%を掛けます9。
ただし、この制度は税金を消す仕組みではありません。相続が起きたとき、贈与した時点の価額を基に、年ごとの110万円控除後の残額が相続税の課税価格に戻されます9。
しかも、いったん選ぶと撤回できません9。一方で、相続時に加算されるのは贈与時の価額なので、将来の株価上昇を見込んで早めに移すかどうかを考える余地はあります9。
さらに暦年課税でも、相続開始前の贈与は一定期間さかのぼって相続税に加算されます。現在の国税庁の案内では、2026年12月31日までに始まる相続は3年以内、2027年以後は段階的に対象が広がり、2031年以後は7年以内が対象です。
なお、相続開始前3年より前の期間については、加算額から総額100万円を差し引ける扱いがあります10。急いで毎年110万円だけ贈与しても、時期によっては相続税の計算に戻ってくる。この点は見落とされがちです。
負担を抑えるためには?
ここまで見ると、税額を軽くしたいなら贈与か相続かを選べばよいように思えます。実際には、その前に事業承継税制が使えるかを確認した方が早いケースが少なくありません。
中小企業庁の白書でも、後継者が決まっている企業の課題として相続税・贈与税の問題が挙がっています11。
事業承継税制を使う
中小企業庁の現行案内では、法人版の特例措置を使うと、一定の要件の下で、承継する非上場株式にかかる贈与税・相続税の100%が納税猶予の対象になります。対象株式数の上限がなく、親族外を含む複数の株主から、最大3人の後継者へ承継できるのも特徴です3。
使うには特例承継計画の提出、都道府県知事の認定、承継後の継続届出などが必要で、手続は軽くありません3。
それでも、自社株評価が高く、現金が少ない会社では、税額を現預金で吸収できるかどうかが承継の成否を分けます。株式にかかる税額そのものが猶予対象になるなら、相続と贈与の比較以前に、承継の選択肢が広がります。
特例措置だけでなく、現在の支援メニューには一般措置や、全国47都道府県で原則無料相談を受けられる事業承継・引継ぎ支援センターもあります2。制度の向き不向きはありますが、税額が大きい会社ほど、制度判定を先送りしない方がよいと言えます。
制度を使わない場合でも、考える順番は変わらない
事業承継税制は、すべての会社に合うわけではありません。将来の株式売却の可能性、後継者を何人にするか、継続報告に対応できるか、経営者保証をどう整理するかで向き不向きがあります。
そのため、制度を使わない場合でも、まず自社株評価を出し、次に相続と贈与の税額差を見て、最後に資金調達や株式の持ち方を詰める流れは同じです。
逆に、この順番を飛ばして後継者だけ決めると、あとで株の集約ができない、贈与税が重すぎる、相続発生後に銀行対応が苦しくなる、といった問題が起きやすくなります。税金の計算は最後の確認ではなく、承継設計の土台です。
ここまでで全体の見方が固まったので、最後に着手順を整理します。
今すぐ進めるべきこと
税額試算は、専門家に丸投げする前の準備だけでもかなり前に進められます。大切なのは、税額不明の状態を長く続けないことです。
まず最初の3か月ですべきこと4つ
最初の3か月でやりたいのは、次の4つです。
- 直近3期分の決算書を用意し、誰が何株持っているかを一覧にする
- 経営者個人の預金、不動産、保険、借入、会社への貸付金や個人保証を洗い出す
- 自社株評価の概算を取り、相続で渡した場合と贈与で渡した場合の両方を並べる
- 事業承継税制の対象になりそうか、最新の締切と要件で確認する234。
この4つがそろうだけで、税理士や認定支援機関との相談はかなり具体的になります。逆に、資料がないまま相談しても、答えはどうしても一般論にとどまります。
専門家に渡す資料を揃える
相談のときに必要なのは、決算書と申告書だけではありません。株主名簿、役員一覧、借入金の返済予定表、個人保証の有無、過去の贈与履歴、不動産の固定資産税評価額や路線価の分かる資料までそろえると、試算の精度が上がります。
税額が見えたら終わりではなく、納税資金をどう作るか、誰に議決権を集めるか、金融機関へどう説明するかまで一緒に考える必要があるからです。
事業承継の税金は、富裕層だけの論点ではありません。非上場株式を持つ中小企業では、相続税も贈与税も、準備の遅れがそのまま承継リスクになります。
まずは自社株評価を出し、相続と贈与の両方を同じ条件で並べ、事業承継税制の適用余地を確認する。そこから始めるだけでも、手遅れになるリスクは下げられます。
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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