事業承継税制の一般措置は使うべきか? 要件、メリット、デメリットの見極め方
事業承継税制の一般措置は、後継者に自社株を渡すときの贈与税や相続税の負担を軽くできる制度です。ただし、一般措置は税金がなくなる制度ではありません。相続税は80%の猶予にとどまり、承継後5年間の雇用や代表者要件も続くため、税額だけで選ぶと後から経営の自由度を失うことがあります。
この記事では、一般措置の要件、メリット、デメリットを整理したうえで、特例措置や相続時精算課税と見比べるポイントまでわかりやすくまとめます。
そもそも一般措置はどんな制度か?
恒久制度だから標準版に見えますが、実際の使われ方はそう単純ではありません。中小企業庁の2025年末の整理では、一般措置の活用件数は年間100〜400件程度にとどまり、特例承継計画の申請は年間2,000〜5,000件程度で推移してきました1。
一般措置は常設でも、使いやすさまで含めた標準版とは言い切れない。まずは、この前提から押さえると判断を誤りにくくなります。中小企業庁は、一般措置の利用が伸びにくかった背景として、3分の2制限、相続税80%、雇用8割維持、株価下落時の扱いなどを挙げています1。
一般措置で猶予される範囲
一般措置は、非上場会社の議決権株式について、贈与税は100%、相続税は80%の納税を猶予する制度です。対象になる株数も、原則として総株式数の最大3分の2までに限られます。
特例措置のように相続税まで100%猶予されるわけではなく、最大3人に分けて承継できる設計でもありません。一般措置は税額を丸ごと消す制度ではなく、承継時の資金負担をいったん先送りする仕組みだと理解したほうが実態に近いです2。
2026年4月時点では、一般措置に適用期限はありません。一方で特例措置は、2027年9月30日までに特例承継計画(承継時期や事業計画を書いた計画)を提出し、2027年12月31日までに承継を実施する必要があります23。一般措置だけを前提に考えるのではなく、今もなお特例措置が比較対象に残っていると捉えるほうが現実的です。
使う前に確認したい要件
会社、後継者、承継後の3条件
- 会社側の条件として、非上場の中小企業であり、上場会社や風俗営業会社に当たらず、資産保有が中心の会社(資産管理会社)に当たらないこと
- 後継者側の条件として、代表者になること、親族などの同族関係者と合わせて議決権の過半数を持つこと、さらに同族内で筆頭株主になること
- 承継後の条件として、贈与なら後継者が原則3年以上役員であること、承継後5年間は代表者であり続け、雇用の8割以上を5年間平均で維持すること
この3つを満たせないなら、税額試算を先にしても意味がありません。制度の使い勝手を左右するのは税率より承継後に守り続けられる条件かどうかだからです。
申告時には担保の提供が必要で、適用後も継続届出書を出し続けなければなりません。提出がない場合には、猶予されていた税額の全額と利子税を納めることになります2。
都道府県への報告も含め、税務と行政の両方で継続管理が必要になるため、制度を使う前に社内で担当者を決めておくほうが安全です。
実務では、この確認を口頭だけで済ませないことが大切です。株主名簿、役員就任時期、直近の従業員数、今後5年の採用計画を並べるだけでも、一般措置に向くかどうかはかなり見えます。
特に親族内で株式が分散している会社は、税額の前に議決権を誰に集めるのかを決めておかないと、制度の前提でつまずきやすくなります。
メリットとデメリットをどう見分けるか?
納税資金を守れるのが強み
一般措置のいちばん大きなメリットは、承継のタイミングで多額の納税資金を用意しなくてよいことです。自社株の評価額が高い会社では、相続税や贈与税の支払いのために、会社から過大な配当を出したり、個人で借入れをしたり、株式を売ったりする圧力がかかります。
一般措置を使えば、そうした資金繰りをいったん避けながら、後継者に議決権を集めやすくなります。納税のために経営判断をゆがめないという意味では、一般措置にもはっきりした価値があります2。
特に将来性はあるのに経営者個人の手元資金が厚くない会社では、設備投資や賃上げに回したい資金を本業に残しやすい点が強みになります。
将来の自由度が下がるのが弱み
一方で、一般措置の大きなデメリットは、承継後の選択肢が狭くなりやすい点です。対象株式を譲渡した場合には、その譲渡部分に対応する税額と利子税を納付する必要があります。
継続届出書を出し忘れた場合も、猶予の打切りにつながります。税金を先送りできる代わりに、株式の動かし方が厳しく管理される。この感覚を持っておくと、制度の重さが見えやすくなります2。
このため、将来M&A(会社の売買や第三者への承継)を視野に入れている会社は慎重さが要ります。株式譲渡で会社を売る形を想定しているなら、先に一般措置を使うことで、後から売却時の負担が一気に表面化することがあるからです。
しかも一般措置には、特例措置のような経営悪化時の再計算による差額免除がありません。人手不足で雇用維持が難しくなる、後継者の育成に時間がかかる、数年後に第三者への承継が有力になる。こうした変化が少しでも見えているなら、税額の軽さより、承継後の自由度を優先して比べるべきです2。
制度に合わせて株式の持ち方や退任時期まで動かさなければならない場面があることも、見落としやすい負担です。
一般措置以外を先に比べたいのはどんな会社か?
特例措置をまだ使える会社
まず比べたいのは、特例措置をまだ使える会社です。2026年4月時点では、特例措置の計画提出期限は2027年9月30日まで延びています。全株式を対象にしたい会社、複数の後継者で承継したい会社、雇用維持のハードルを一般措置より柔らかくしたい会社では、一般措置より特例措置のほうが設計に合うことがあります3。
期限の有無ではなく、承継後5年の経営計画に合うかで見るほうが、実務では役立ちます。比較するときは、まず全株式を渡したいのか、後継者が1人でよいのか、雇用要件に柔軟性が必要なのかを確認すると判断しやすくなります。
特例措置は特例承継計画の提出が前提になるため、期限の少し前に動くのではなく、認定支援機関(国の認定を受けた税理士や金融機関など)と早めに準備を始める必要があります。
相続時精算課税やM&Aを比べたい会社
もう一つ、一般措置より先に別案を比べたいのが、株価がまだ高くない会社です。中小企業庁の整理でも、事業承継税制の活用は売上高1億円以上の企業に多く、株価が小さければ制度を使わなくても納税額が出ない領域があるとされています1。
業績が伸び悩んでいる会社や、相続税評価額がまだ大きくない会社では、慌てて納税猶予を選ばないほうがよい場面があります。
その代表例が相続時精算課税です。相続時精算課税は、贈与時の価額を基準に将来の相続税へ持ち戻す仕組みで、2024年以後の贈与では年110万円の基礎控除があり、累計2,500万円までの特別控除もあります。
一方で、いったん選ぶと同じ贈与者について暦年課税(毎年の贈与ごとに課税する通常の方法)には戻せません4。株価がまだ低く、将来の成長で評価額が上がりそうな会社では、早めの贈与と相続時精算課税が比較対象になります。
ここで大事なのは、相続時精算課税が常に有利だと考えないことです。将来の相続財産全体、他の相続人との分け方、後継者に渡す時期まで含めて見ないと、有利不利は変わります。
数年後に親族以外への承継やM&Aが有力なら、税制を使わない案や第三者承継を前提にした設計まで含めて見たほうが、結果的に自由度を守りやすくなります。税制は強力ですが、会社の将来の売却や承継の形に合わなければ、かえって身動きを取りにくくすることがあります。
最初の打ち合わせで決めること
3つの案を横に並べる
- 一般措置を使う案として、税額だけでなく5年間の雇用維持、代表者要件、届出負担まで確認する
- 特例措置を使う案として、現在の期限に間に合うか、全株式承継や複数後継者の必要があるかを確認する
- 別案を採る案として、相続時精算課税、制度を使わない承継、将来のM&Aまで含めて自由度を比較する
この3案を同じ表に置くと、税額の多寡だけでは見えなかった違いがはっきりします。誰が株式を持つのか、5年後に売却や再編の可能性があるのか、雇用維持を現実的に見込めるのか。こうした項目まで一緒に比べて初めて、制度選びが経営判断になります。税額がいちばん小さい案と、会社がいちばん動きやすい案が一致しないことは珍しくありません。
税理士の試算だけで決めるより、この3案を並べて法務、資金計画、後継者育成の見通しまで一緒に確認するほうが、後悔は少なくなります。事業承継税制の一般措置は、条件がぴたりとはまる会社には有効です。
ただし、税負担を軽くする制度である前に、承継後の経営を一定の形に固定する制度でもあります。メリットは納税資金を守れること、デメリットは将来の自由度を削りやすいことです。この両方を見たうえで、税だけでなく法務と経営戦略も合わせて設計することが、後悔しにくい承継につながります。
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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