M&A仲介会社の手数料相場はどう見るべきか? 事業承継で見落としやすい比較ポイント
事業承継でM&Aを考え始めたとき、多くの経営者が最初に気にするのは仲介会社の手数料です。ところが、表面の5%という料率だけを見ても、実際の負担は分かりません。
中小企業庁のガイドラインには、譲渡額5,000万円でも最低手数料1,000万円が適用され、手数料総額が税込1,100万円になる例が載っています。1 つまり、見るべきなのは安いか高いかではなく、何に対して、いつ、いくらかかるのかです。
この記事では、事業承継でM&A仲介会社を比べるときに外せない見方を、実務に沿って整理します。
M&A仲介会社の手数料相場は一言で言い切りにくい
最低手数料ひとつとっても、500万円~2,500万円と幅広い
M&A仲介会社の手数料相場を一言で言い切りにくい理由は、成功報酬の料率より先に最低手数料が効く案件が少なくないからです。中小企業庁は、レーマン方式が広く使われていても、譲り渡し側が小規模だと十分な成功報酬を確保しにくいため、最低手数料を設ける仲介会社やフィナンシャル・アドバイザーが多いと明記しています。1
しかも、国の参考資料に載る登録M&A支援機関の分布では、最低手数料は500万円と1,000万円に厚みがあり、2,000万円や2,500万円の設定も一定数あります。2 一方で、日本M&Aセンターは譲渡側の成功報酬の最低額を2,000万円と公開しています。3 つまり、相場は一つの数字ではなく、最低手数料の帯で見るものです。
ここで注意したいのは、総額が成功報酬だけで終わらないことです。ガイドラインでは、着手金、月額報酬、中間金、成功報酬という複数の発生タイミングがあり、各社で体系が異なると整理されています。1 たとえ成功報酬が同じ5%でも、着手金がある会社とない会社では、途中で必要になる資金が変わります。
この見方に立つと、冒頭の5,000万円の譲渡例が重く見えてきます。本来の5%なら税込275万円ですが、最低手数料1,000万円が優先されると総額は税込1,100万円になります。1 小規模案件ほど、表面の料率より最低手数料の確認が先です。ここを見落とすと、手取りの見込みが大きくずれます。
仲介手数料の金額が仲介会社によって異なる理由
基準額が違えば、同じ5%でも別物になる
次に見たいのが、何に5%を掛けるのかです。中小企業庁は、成功報酬の基準となる価額として、譲渡額、移動総資産額、純資産額など複数の考え方があると整理しています。1 同じレーマン方式でも、株式の売買額だけに掛けるのか、負債を含む総額に掛けるのかで、金額は大きく変わります。
公開されている各社ページを比べても違いは明確です。日本M&Aセンターは、譲渡企業の営業権を含む時価総資産額を基準にし、最低額2,000万円を掲げています。3 ストライクはオーナー受取額レーマンを採用し、基本合意時に別途報酬が発生する一方、譲渡企業の検討段階では着手金や企業価値算定費用、月額報酬を無料としています。4 M&Aキャピタルパートナーズは株価レーマン方式を打ち出し、株式価額に対してのみ手数料率を掛けると説明しています。5
差が大きく見えるのは、計算の土台が違うからです。ストライクの公開例では、譲渡金額5億円、負債総額4億円のケースで、オーナー受取額ベースなら2,500万円、総資産ベースなら4,500万円という差が示されています。4 これはどちらが正しいという話ではなく、基準額の定義を読まないまま料率だけを比べると、判断を誤るという意味です。
さらに、仲介手数料に何が含まれているかも会社ごとに違います。中小企業庁は、手数料以外に交通費などの実費が発生することがあるとしています。1 日本M&Aセンターも、不動産鑑定や登記、公認会計士、税理士、弁護士費用などは仲介手数料に含まれないと明示しています。3 依頼前には、手数料の料率だけでなく、別料金になる作業の範囲まで確認したほうが安全です。
ここで大事なのは、会社名を覚えることではありません。報酬基準額が違う以上、同じ5%という表示は横並びで比較できないということです。見積書や説明資料では、譲渡額、株価、オーナー受取額、移動総資産のどれを土台にしているかを先に確認してください。ここまでで、相場を見る物差しが一つ増えます。次は、その会社が誰のために動くのかを見ます。
仲介とFAはどちらを選べばいいのか?
両当事者の間に立つのか、片側に付くのかを確認する
料金の比較で見落としやすいのが、仲介とFA(フィナンシャル・アドバイザー)の違いです。中小企業庁は、仲介を譲り渡し側と譲り受け側の双方との契約に基づいてマッチング支援等を行う形、FAをいずれか一方との契約に基づいて支援する形と整理しています。1
どちらが常に優れているという話ではありません。ただ、仲介は両当事者の間に立つため、構造的に利益相反のリスクを抱えます。そのためガイドラインでは、仲介者は一方当事者の利益のみを図ることなく中立性と公平性をもって両当事者の利益の実現を図る必要があること、両当事者から手数料を受け取る場合はその旨を説明することなどを求めています。1
もう一つ大切なのは、契約書に入る条項です。中小企業庁は、契約前に手数料の算定基準、相手方の手数料、秘密保持、専任条項、直接交渉の制限、中途解約などを具体的に説明すべきだとしています。12 とくに、他の候補先に相談しにくくなる専任条項や、自分で見つけた相手とも直接交渉しにくくなる条項は、後から効いてきます。
だから、比較の場面ではどちらの立場で助言するのかを最初に確認したほうが安全です。説明に納得できない場合は、国の登録制度の対象機関かどうかを見たうえで、事業承継・引継ぎ支援センターや士業にセカンド・オピニオンを求めるという手もあります。国のガイドラインでも、支援内容や報酬の妥当性を他の支援機関に確認することは有効だとされています。16
比較するときに先にそろえたい確認項目
見積書で外せない3つの項目
ここまでを踏まえると、比較ポイントは多くありません。むしろ、次の3つに絞ったほうが判断しやすくなります。12
- 報酬基準額
譲渡額なのか、株価なのか、オーナー受取額なのか、移動総資産なのか。負債や役員借入金を含むかどうかまで確認します。
- 最低手数料と発生タイミング
着手金、中間金、月額報酬、基本合意時報酬、成功報酬、実費を分けて見ます。不成立でも戻らない費用がどこにあるかは、必ず確認したい項目です。
- 誰が、どこまで支援するか
担当者の資格や経験年数、成約実績、DDや契約交渉で何を支援するのか、相手方の手数料、秘密保持、直接交渉制限、専任条項、中途解約の扱いまで書面で確認します。
この3つを並べるだけで、比較表の骨格はほぼ完成します。安い会社を探す作業ではなく、総額とリスクを見える形にする作業だと考えると、判断がぶれにくくなります。中小企業庁も、契約前に手数料の詳細な算定基準、提供する具体的な業務、担当者の資格や経験年数、成約実績などの説明が必要だと明示しています。2
例えば、A社は着手金0円でも最低手数料1,000万円、B社は着手金100万円と成功報酬5%というように、分解して見ると印象が逆転することがあります。比較表は合計額だけでなく、成約前に出ていく現金と成約後に出ていく現金を分けて書くと使いやすくなります。
相談先を決める前にすべきこと
無料相談を使い、最初の一社で決めない
最初の一歩として使いやすいのは、公的な相談窓口です。中小企業庁は、全国47都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターで、事業承継全般の相談対応やM&Aのマッチング支援などを原則無料で実施していると案内しています。7
中小企業基盤整備機構も、第三者承継の相談に無料で対応し、民間機関を活用する際のセカンド・オピニオンとしても使えるとしています。6
登録制度の検索で確認したいこと
そのうえで、民間に依頼するなら、M&A支援機関登録制度の登録支援機関データベースで最低手数料、FAか仲介か、経験年数などを絞り込み、2社か3社は比べるのが無難です。2024年度以降は、標準的な手数料体系や料金算定根拠の報告と公表が登録要件に組み込まれ、2026年3月時点では3,399件のFA・仲介業者が登録されています。8910
実際の進め方としては、最初に公的窓口で論点を整理し、その次に民間2社か3社から見積りと説明を受け、最後に同じ前提条件で並べ直すと分かりやすくなります。ここで前提条件とは、譲渡希望額、負債の扱い、役員借入金の有無、どこまで支援してほしいかということです。前提をそろえない比較は、数字だけがきれいでも意味がありません。
なお、コストの下げ方としては、仲介会社以外の選択肢もあります。たとえばM&Aクラウドは、成約しても売り手企業から手数料を受け取らないと案内しています。11 ただし、この場合は交渉、契約、税務、法務の体制をどこまで自前で用意するかが別の論点になります。手数料を下げることと、支援を薄くしてよいことは同じではありません。
事業承継で本当に大切なのは、仲介会社の名前を知ることではなく、自社の手取りと引継ぎ後の安全性を守れる契約になっているかを見抜くことです。相場を知るだけで終わらせず、最低手数料、報酬基準額、支援の立場の3点を並べてから相談に入る。そこから初めて、比較が意味を持ちます。
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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