事業承継計画書と聞くと、まずテンプレートを探して埋める作業を思い浮かべがちです。しかし、公的なガイドラインが重視しているのは、書類の体裁よりも、現経営者と後継者、従業員が同じ日程表を持つことです1。だから先に決めるべきなのは、何を書くかより、いつ誰に何を引き継ぐかです。
この記事では、白紙からでも書き始められる順番と、テンプレートに落とし込むときの実務上のポイントを整理します。

事業承継計画書を作る理由
事業承継計画書を作る目的は、関係者が認識をそろえること
経験者でも見落としがちな事実があります。中小企業庁のガイドラインは、書類作成そのものは目的ではないと明記しています1。
重要なのは、計画を作る過程で、現経営者、後継者、従業員などの関係者が認識をそろえることです1。様式をきれいに埋めても、家族や幹部に説明していないなら、計画書はまだ半分しかできていません。
承継時期から逆算して考えると、書く順番が決まる
もう一つ大事なのは、順番です。2025年版中小企業白書では、中小企業の経営者は60歳以上が過半数を占めるとされています2。
事業承継は、後継者の育成、株式や資産の移転、金融機関や取引先への説明が重なるため、最後にまとめて考えると詰まりやすくなります。承継時期から逆算すると、今年やることと来年以降に回すことが自然に分かります。
たとえば、社長交代を3年後とするなら、1年目には後継者候補への意思確認と社内での役割付与、2年目には金融機関や主要取引先への説明、3年目までに株式や個人保証の整理方針を固める、といった流れが見えてきます。
逆に、ゴールを決めずに事業承継計画書を作ろうとすると、現状分析だけ詳しく、実行日がどこにも書かれていない計画書になりがちです。
最初に棚卸ししたい項目
現状分析
最初の棚卸しで見るべきなのは、売上や利益だけではありません。ガイドラインは、自社の現状分析に加え、今後の環境変化、課題、必要なアクションまで整理するよう示しています1。
中小機構の実務資料でも、知的資産、親族や株主の状況、経営者個人の資産や個人保証まで現状把握の対象に入れています3。
ここで、現状分析は障害の洗い出しだと考えると、書く内容が具体的になります。たとえば、主要取引先との関係が現経営者に集中していないか、個人名義の不動産が事業に使われていないか、借入の保証が誰に付いているか、といった点です。
こうした情報は、承継の直前になって初めて確認すると、税務や法務の整理に時間がかかります。早めに見える化しておけば、計画書のどこが空欄なのかもはっきりします。
後継者と承継方法
後継者と承継方法は、最初から100点の確定でなくてかまいません。親族内承継、従業員承継、第三者承継のどれが現時点で最有力かを仮置きし、後継者候補に何を学んでもらうかを書き出すだけでも前に進みます1。
誰が継ぐかだけを書いて、役職移譲の時期や育成計画が空欄のままだと、計画書はすぐに形だけのものになります。仮決めでも期限を置くことが、先送りを防ぐ一番簡単な方法です。
ここで迷いが残る項目は、未定のまま放置しないことが大切です。たとえば、承継方法は6月までに決める、後継者教育の内容は夏までに整理する、と期限を置きます。そうすると、計画書は完成品ではなく、決める順番を示す実務メモとして機能し始めます。
事業承継計画書のテンプレートはどこにある?
中小機構が公開している
中小機構は、事業承継の実務資料に加えて、Excel形式の事業承継計画表や、骨子を整理する様式を公開しています34。
ただ、どの様式を使うにしても、最初の下書きに必要な欄は多くありません。1枚でよいので、次の4つを並べるところから始めるのがおすすめです。
- 基本方針。いつ、誰に、どの方法で引き継ぐのかを書く。
- 会社の現状と目標。現状の強み弱み、承継後にどう伸ばしたいか、売上や利益など最低限の目標を書く。
- ヒトの承継。後継者教育、役職移譲、社内での権限委譲を書く。
- 資産と関係者の承継。株式や事業用資産、借入や個人保証、家族・従業員・金融機関・取引先への説明時期を書く。
中小企業庁のガイドラインが挙げる、自社の現状分析、環境変化の予測、承継時期を入れた事業の方向性、具体目標、課題整理という流れも、この4つにまとめ直せます1。テンプレートは見栄えのためではなく、抜けを防ぐ見取り図として使うのが実務的です。
テンプレートを厚く作りすぎるのも避けたいところです。項目が多すぎると、未記入の欄が増え、会議のたびに更新されなくなります。最初は1枚か2枚に抑え、詳細な税務論点や契約論点は、専門家との打ち合わせメモに切り分けた方が運用しやすくなります。
10年表にすると、抜けや先送りが減る
中小機構の事業承継計画表は、現在から10年目までを横軸に取り、売上高、経常利益、定款・株式・その他、現経営者と後継者の年齢や役職、関係者の理解、後継者教育、株式・財産の分配、持株比率まで一枚で追える形になっています4。
ここで大事なのは、完璧な数字を入れることではなく、どの年に何を動かすかを見えるようにすることです。10年表にすると、株式の整理だけが先に進み、後継者教育や社内発表が空いている、といった偏りがすぐ分かります。
テンプレートを埋めるときは、現在欄を厚く書きすぎない方がうまくいきます。現在欄は事実の確認にとどめ、1年目から3年目に何を動かすかを書いた方が、会議でも相談でも使いやすくなるからです。
株式、資産、関係者への説明はどう書けばよいのか?
株式と資産は、方法と時期をセットで書く
株式や資産の欄で失敗しやすいのは、抽象語で済ませることです。株式移転予定、資産整理予定とだけ書いても、誰から誰へ、いつ、どんな手段で動かすのかが分かりません。方法と時期をセットで書くと、税務や法務の相談が一気に具体化します。
中小機構の記入例でも、株式の分散防止、会社による買い取り、贈与、遺言、公正証書の作成などを年次に置いて整理しています3。
まだ手法を決め切れない場合は、贈与か売買かの結論を急ぐより、現状の持株、個人名義不動産、借入、個人保証の有無を先に書き出してください3。
未定の項目は、専門家確認と入れて面談月を置く方が、空欄のままにするよりはるかに使える計画になります。税制や法務の制度名を無理に増やすより、現在地と期限を正確に書く方が失敗しにくいです。
関係者への説明は、時系列で書く
関係者への説明も、最後にまとめてではなく、時系列で欄を作ると進めやすくなります。家族、役員・従業員、金融機関、主要取引先の順に、誰に何をいつ伝えるかを書いてください。
大分県の支援事例では、社長、後継者、女将、若女将の4人を含むヒアリングを重ね、課題を洗い出したうえで計画書を作り、承継時期まで見える化しています5。説明の順番を書き込むと、計画書は自分用メモから、周囲を動かす実行表に変わります。
特に見落としやすいのは、金融機関への説明時期です。役職交代の前に話すのか、株式の整理が見えてから話すのかで、必要資料も相談の深さも変わります。取引先についても、全社一斉ではなく、依存度の高い先から順に説明する方が実務では動きやすくなります。
書いたあとにすべきこと
専門家に相談する
ここまで書けたら、次にやるべきことは下書きのまま相談することです。事業承継・引継ぎ支援センターは全国47都道府県に設置され、相談は無料です6。
社内だけで悩むより、たたき台を持ち込んだ方が、株式、税務、保証、説明順序の抜けが一気に見つかります。まず相談先を決めるだけでも、停滞はかなり減ります。
相談先に持っていくときは、完成度より、抜けが見える状態を優先してください。空欄が残っていても問題ありません。むしろ、どこが未定なのかが見えている方が、面談では次の一手を決めやすくなります。
初回面談の前に確認したいこと
初回相談の前に、次の4点だけは手元にそろえておくと話が早くなります。資料が完璧である必要はありませんが、この4点があるだけで相談の質はかなり変わります。
- 現経営者がいつまでに役職を譲るつもりか
- 後継者候補と、今不足している経験や権限は何か
- 株式、個人名義資産、借入、個人保証の現在地
- 家族、幹部、金融機関、主要取引先に説明した時期と、まだ説明していない相手
事業承継計画書は、未決事項を見えるようにする道具です。だから最初から完璧な計画書を作る必要はありません。
まずは、承継のゴールから逆算して、まず1枚に時期と順番を書き出す。順番を外さないことが、事業承継計画書の作り方でいちばん大事です。
出典・参考資料
執筆者:補助金フラッシュ 士業編集部
補助金・助成金の活用法からAI導入、業務の生産性向上まで、中小企業の経営に役立つ情報を士業の専門家チームがわかりやすく解説します。
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